ネクタイ選びの重要性

整ったスーツ姿は仕事ができる印象を与える。中でもポイントになるのがネクタイ。様々な柄や素材からどんなものを選べばよいのか。結び方もコツがあるらしい。ネクタイ上手の基本とは……。


 「スーツを着た時にシャツとネクタイがのぞくVゾーンは顔と一緒に記憶されやすく、手を抜けない場所です」と指摘するのはパーソナルスタイリストの三好凜佳さん。主に30~40代の男性にアドバイスしているが「ネクタイは本人が選ぶとワンパターンになってしまうことが多く、よく相談される」という。


では、どう選べばよいか。三好さんは「買いに行く前に手持ちのスーツの襟を確認してほしい」と強調する。スーツには標準的なタイプのほかに、襟幅の狭いモードタイプがある。この襟幅がネクタイ選びのカギだからだ。大剣と呼ばれるネクタイの幅の広い方と、スーツの下襟の幅をだいたい同じにするのが鉄則だ。


 店頭には大剣が標準の8~9センチ幅だけでなく、幅6.5センチ以下の狭いタイプのネクタイも並ぶ。スーツが標準タイプなのに細いネクタイを選ぶと、実際にスーツに合わせた時に、バランスの悪さにがっかりすることになる。注意しよう。



■赤系には注意

 仕事で着用するネクタイの色や柄には決まったルールはない。とはいえ、定番として持っておきたいのは「万能色の紺や青」(三好さん)だ。スーツの基本色である紺やグレーに合い、白や水色、薄ピンク色のシャツにも合わせやすい。


 一方、気をつけたいのは赤系。重要な商談や会議に赤色のネクタイを着用する人がいるが、「赤は色味によっては肌の色に合わないことがある」と三好さん。赤に限らず少し派手と感じる色を選ぶ時は全身を鏡に映してネクタイが浮かないかを確認しよう。


 柄は小さい水玉や小紋なら、まず失敗しない。柄は大きいほどカジュアルな印象になる。大事な場面で大きな柄を選ぶのは慎重にすべきだ。


 注目したいのは無地。伊勢丹新宿本店(東京・新宿)紳士・スポーツ営業部の東俊秀さんは「最近は無地がブーム。ストライプのシャツなどとシンプルに着こなすのがおしゃれ」と話す。

ストライプ柄もどんな場面にも合わせやすい。持っている人は多いだろう。ただ、この柄は海外では意識すべきことがある。ストライプ柄のネクタイは「レジメンタルタイ」と呼ばれ、英国などでは柄が特定の学校や団体を象徴していることが少なくない。出会った人が柄に反応してくる可能性はある。


 意外と気になるのはネクタイの素材。三好さんは「絹100%ならどんな場面でも失礼にならない」とみる。ただし、最近は店頭に綿や麻のものや、締めた時の圧迫感が少ない裏生地のないタイプ、見た目が涼しい編み地素材のニットタイの品ぞろえが増えている。


■結び方も大切

ニット素材や裏生地のないネクタイなどが並ぶ売り場(東京・新宿の伊勢丹新宿本店メンズ館)

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ニット素材や裏生地のないネクタイなどが並ぶ売り場(東京・新宿の伊勢丹新宿本店メンズ館)

 夏はクールビズが定着しノーネクタイ姿が珍しくなくなったが、実は「この2年くらい、夏に麻など多様な素材のネクタイを選び楽しむ人は増えている」と東さん。試してみてはいかがだろう。


 ネクタイ選びの基本をつかんだら、結び方のポイントもおさえたい。


 結び方でも大事なのはバランスだ。最近は襟の開き角度が100~120度と広いものや襟先をボタンで留めたボタンダウンなど、シャツのタイプが多彩になっている。そのためシャツの襟幅とバランスがよい結び目を作ることが大切だ。結び目が大きすぎるとネクタイばかりが目立ち、小さいと貧相に見える。


 バランス良く結びやすいのは「プレーンノット」。下図を参考に試してみよう。首もとで完全に締める前に、結び目の下にディンプルと呼ばれるくぼみを作るのがポイント。東さんは「ディンプルがあると、ぐっとおしゃれな雰囲気になる」とアドバイスする。



ディンプルの位置を中心より少しずらしたり、より華やかに見せるため、くぼみを2つ作ったり自分なりに試してみるとよい。ただしディンプルは弔事に向かない。心に留めておこう。


結んだら鏡で大剣の長さをチェックする。立った姿勢で大剣がベルトのバックルにかかる程度が適切とされる。結び目の大きさや小剣の長さを調整しよう。オフィスでは上着を脱ぐことが多いので、長さのバランスが悪いと意外に目立つ。


ネクタイの長さは全長145センチ程度が一般的。だが、首の太さや身長によっては、適切な長さに結びにくい人もいる。百貨店などでは、そうした人たち向けに長めのネクタイを用意していることが多い。ためらわず、店員に相談してみるとよいだろう。


出典: 日本経済新聞夕刊2014年4月28日付

ネクタイの正体

 ネクタイは、二枚のパンに挟まれた「具」のようなものである。「具」がまずければ、どれほどおいしいパンでもまずく感じ、「具」がおいしければ多少まずいパンでも我慢できる。


 ネクタイは、男が正しい装いをする中で、もっとも正体がよく分からないモノだが、もっともその人の正体を現すモノでもある。

 我々がかろうじて理解できるのは、正しい装いの際に、それが絶対に必要であるという不可思議な現実的事実だけである。

 スーツやシャツ、靴は身につけ、人間との一体感が必要だが、ネクタイは、首からただ所在なげにぶら下がっているだけだ。

 ネクタイをぶら下げ、暑さ寒さを感じることもない。

 ネクタイが肉体をガードしてくれることもない。逆にネクタイで首を締められ殺されたいう話は稀にある。靴で殴られ、殺されたという話は聞いたことがない。

 ネクタイは、我々に何の肉体的快楽を与えることもない。

 ネクタイは、150センチに満たない、たった一本のキレにすぎない。


 にもかかわらず、それを首からぶら下げているだけで、公共の場の出入りが許される。社会の一員として迎えられる。特殊な場を除けば、色も自由である。ねじれていても、シミが付いていても、山のように積み上げられたバーゲン品であろうとも、それをぶら下げていれば、どんな場所でも入場が許されるという、なんとも不思議な性格を具えているシロモノである。

 スーツを着ていても、ネクタイなしでは入場を許されず、逆にジャケット無しでただネクタイをぶら下げていれば、インフィーマル性は問われない。ノーネクタイが、すぐにカジュアルスタイルに結びつく。


 だが深く詮索することはない。グローバルなコモンセンスとして確立されている以上、我々は、首にたった一本のキレをぶら下げるだけで、社会に参加していることが立証されるという現実だけを、重く受け止めればよい。現実に照らし合わせ、我々の社会で、ネクタイが非常に重要な意味を持っているということだけを自覚すればいいのだ。

 それ以上深く考えるのはばかげている。本当は深く詮索すべきだが、一般の人たちにとっては、おそらくあまり意味がないと思えるからだ。


 ただし、ネクタイそのものではなく、人の首を締めつけながら、人の体の中央にふてぶてしくぶら下がっているというネクタイの存在根拠については少しばかり考える必要がある。なぜその位置に、ネクタイが存在しなければならないかである。

 人の首を締めなければならない理由は、ネクタイがそれをぶら下げた人に対して、身じまいを正すことを催促しているのである。

 古来、日本の衣服の歴史に、日常的に首を締めつけるという習慣はなかった。にもかかわらず、近代になって突然ふってわいたようにネクタイが出現したのは、首回りをシャンとさせ、公共の場では正しい身じまいが必要だと、ネクタイが我々に警告しているのだ。

 人の体の中央に陣取った理由は、ひたすら目立ちたいがためである。他人の目を集中させることを目的にしているのだ。ネクタイは、男が身につけるものの中で、もっとも客観的な視線を必要としているのである。

 それが、ネクタイの存在根拠である。


 ネクタイはスーツ同様、時と場所を選ぶべきモノであるという認識は、きわめて大切である。

 とはいえ寒暖の調節もせず、肉体のガードもままならないのであれば現代のネクタイは、衣服ではなく装飾品の類であることは、ほぼ間違いない。

 そこが重要である。

 装飾品であれば、いつどんな場合にぶら下げるかが当然問われる。パーティー、葬儀、結婚式の装飾品は自ずと異なる。


 だが不思議なことに、欧米とは違って、日本ではそれがどんな色、またどんな柄であろうと、冠婚葬祭を除けば許される。誰にも何にもいわれない。冠婚葬祭の黒と白以外は、すべて自由という風潮がある。

 誰も何も言わない理由は、我々がネクタイを「単なる装飾品」であると思いこんでいるためだ。だから誰もが贈答に用いるのである。日本に出回っているネクタイの60%以上が、自分のためではなく他人のためだというデータもある。

 他人が選んだネクタイほど気持ちの悪いものはない。それを喜んで締める人は、服装に関心があるようで、実は何も考えていない人である。

 同じネクタイをしている人に出会うことほど、バツの悪いものはない。「この世に自分と同じネクタイをしている人を見ることは耐えられない」といったのは、確かバーナード・ショーである。

 ネクタイは、それほど不思議な存在なのだ。だからこそ慎重に選ぶ必要がある。安価なタイを、数多くという考えは禁物だ。

 イタリアのお洒落な男たちは、本当に気にったネクタイは100本のうち1本にすぎないという。そのネクタイを3日間続けて締める。代わりに、毎日異なるスーツ、シャツ、靴を身につける。


 本来ネクタイとは、そういう類のお洒落のなのだ。


出典: (「男の服装術」 落合正勝 はまの出版 P141~P144から抜粋)

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